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ロンドンロード周辺

2012年の半ば頃から、ロンドンロードには、やたらと質屋がめだつようになった。 英語ではポーンブローカーという。

2011年の夏に、ロンドンの一区で警察の対応への抗議デモに端を発した騒乱は、その他のロンドン地域や 各都市に飛び火し、政府首脳らが夏休みの旅先から急ぎ戻り、対策にあたるほどの事態にたちいたった。ク ロイドン区もそのひとつで、ロンドンロードに並ぶロック専門の楽器店も眼鏡店も自転車店も質屋もスーパ ーも略奪や破壊にあった。放火され大火事になって焼け落ちたビル群の敷地は高い板塀で囲まれ、まだ開発 もはじまっておらず、隙間から土のむきだしになった広い空き地とその向こうの家々が見える。

いつのまにか、ドアが壊されたインド料理店がまず質屋になった。自転車店は改装されきれいな自転車がな らんだかと思ったのもつかの間、という感じでやはり質屋になった。それから食べ放題の中国料理店、漢方 薬局、不思議なフィギュアなどを売る店もみんな質屋に化けた。どんなお店ができるのかと、好奇心をもっ て半分楽しみに待っていたのに。そのいずれの店の新しいウインドーにもぴかぴかの時計や宝石が並んでい る。フードバンクというチャリティが、生活が苦しく食べ物に不足した家庭を対象に、週50万食分を配っ ているというニュースが流れた、クリスマス前の時期、とくに店内に客の姿がめだったのは、気のせいだっ たろうか。経済不況のおりに貧しい地域で増えるのは質屋ばかりなり。

しかし、こうも質屋が多い通りを歩くのは気がおもいものである。そう感じているのは私だけではなかった 。去年の暮れにあった「西クロイドン地域フォーラム」(ロンドンロード周辺の地域再生を目指す)の集ま りでも、「質屋の出店が多すぎる」と指摘する人がいた。クロイドン区役所の執行部長が出席して今後の計 画などについて質問を受けていた。質屋の出店について検討するという答えもあったが、すでにできたこれ だけの質屋の数が減るときがすぐにでもきてほしい。昨年は100年以上続いた大きな百貨店が倒産、電気製 品チェーンのコメットが倒産、今年に入っては、カメラ屋チェーンのジェソップ、音楽店のHMV、次々と 倒産のニュースがあった。HMVは引き受けてを探しているようで閉店していないが、人気のない空き店舗 がめだつのが現状である。

こんなロンドンロード周辺を、日本から来た地理学を専門としコミュニティの国際比較調査をしている若い 研究者を案内して一緒に歩いた。その人は「おもしろいなあ、こういうところに来たのははじめてです。バ ングラディッシュのにおいがする」と感想をもらした。この人はバングラディッシュの田舎に調査へ行った 経験からそう言っていた。ああ、そうなのか、「バングラディッシュのにおい」かと、自分がそのにおい気 づいていないことに新鮮な気持ちでおどろいた。わたしの 鼻がわるいだけなのか、慣れてしまっているのか。

いや、わたしもいろいろな名前も味も料理法もさだかでないさまざまな野菜が独特の配置で並んでいる店の 連なる前を歩きながら、なにかのにおいを感じてはいる。ただ、それらをまとめて「バングラディッシュの におい」と、記憶のどこかから見つけてつなげることができないだけなのだ。おそらくロンドンには、ほか にもいくらでも「バングラディッシュのにおい」や「イギリスではないどこかの国のにおい」のする街が 存在する。

2011年の国勢調査(1801年から10年ごとに実施)によると、イングランドとウェールズの人口は合わせ て5610万人。10年前と比べて370万人が増えたことになるそうだ。増加は長寿と移民、そして移民の出産 率の高さにあると指摘されている。増加率の44%は直接の移民に帰せられる。2001年からの10年は160万 人の増加で、それに比較すると2倍近いスピードだ。移民たちは、わたしも含めてみなそれぞれの「におい 」を運んでこの国に来ている。ロンドンロードにはそんなにおいがそこここにひそんでいる。

2011年の夏の騒ぎのときは、煙が上がるのを近くに見ながら引っ越そうと決めていたが、1週間もすると 便利さがまさって、今もここにいる。ロンドンロードには質屋もやたらと増えてしまったが、葉っぱだけで ない日本のと同じほうれん草やおいしい大根や白菜も簡単に手に入る。大根や白菜の手に入りにくいところ へ移るのかとおもうと腰が重くなる。















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